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【おとどけアート 札幌市立新川小学校 × 下道基行】活動を振り返って

まだ見ぬアーティストを想像する


 新型コロナウィルス感染拡大によって様々な制約や自粛を余儀なくされた2020年。おとどけアート事業においてもその影響を大きく受けたのは札幌市立新川小学校で活動であった。香川県直島に住むアーティストの下道基行氏をお迎えして実施を予定していた活動は、緊急事態宣言の発令やその後の収束を見ない状況を鑑みて、次年度へ持ち越すことを決断した。しかしながら、その決定に至る経緯の中で、試してきたことがいくつかある。遠隔にいるアーティストと学校をどのように繋いでいくか。ここでは、今までにない挑戦を迫られる機会となった、新川小学校において実施した活動について、主体的に関わっていただいた先生方のコメントを交えて振り返ってみたい。

突如現れた不思議な空間との出会い


 コロナの影響が一時的に落ち着きを見せた秋口。まだ下道氏を迎える可能性を最大限模索していた私たちは、活動をどのようにスタートさせるべきか相談を重ね、アーティストの作品展示を校内の一角で実施することを決断した。下道氏本人は、当初事前のアナウンスや紹介を極力控えたいと考えていたこともあり、この決断には迷いもあったかと推測する。しかしながら、コロナ禍での取り組みとしてまだ見ぬ存在への想像を膨らませる時間が、物理的な距離を埋める可能性を見出すことに舵を切ったのだ。 会場は、3階の特別教室。展示した作品は下道氏の代表作でもある《津波石#04》《津波石#305》の二つの作品。津波によって流されて来た巨石を定点で観測・撮影した映像作品である。合わせて、下道さんの写真集や、下道さんの作品が掲載されている雑誌などの資料も設置した。

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「よくわからない状態からスタートしたが、作品を見て不思議な気持ちになった。学校は『与える勉強』が中心となりが ちだが、作品を見ている子ども達は、自発的にアーティストの存在を知ろうとしていた。(6年生担任)」


「何かが始まるという期待感が膨らんだ。参考資料として置かれた書籍を読書週間の推薦図書として紹介していた児童もいた。(6年生担任)」


事前の詳しい説明を省き突如現れた不可思議な空間に、子ども達も先生方も戸惑いは大きかったと推測する。一方で、その受け取り方、感じ方を個人に委ねたことにより、「どんな人なんだろう?」「どういう意図があるのだろう?」という好奇心や、自分で調べるという自発性を刺激した部分もあったようだ。



画面越しの交流


 小学校で作品展示が開始され、いよいよ本格的な活動を模索し始めた11月。不幸にも新型コロナウィルス感染状況が再び悪化し始め、予定していたアーティストの滞在期間を延期して様子を伺ったが、状況は好転することなく、年内の活動を断念することになった。そうした中で、先生方から6年生の授業に下道氏をお招きできないかという提案が舞い 込む。もちろんリモートでの参加ということであったが、下道氏はこれを快く承諾。様々な職業について学ぶキャリア 教育の授業に講師として参加してもらうことになった。とはいえ学校にはまだ外部にアクセスできるWi-Fi環境が整備されていないため、自前のものを準備し、パソコンで教室と直島のアトリエを繋ぐ作戦をとった。 6年生は全部で3学級。1学級ずつ順番に、同様の授業を展開した。直島の風景を見せるところから始まった下道氏の授業は、自身の生活環境、創作環境の紹介、これまでに制作した作品やプロジェクトの話を中心としながら、新川小学校でやってみたいことの解説へとつながっていった。

【おとどけアート 札幌市立新川小学校 × 下道基行】活動を振り返って_a0062127_17052559.jpg

「北海道にはない環境に住む、遠くの人と繋がるという機会を作りたかった。その実感が持てる機会だった。(教務主任)」

「見たことを全て口に出してしまう子ども達に、全て返してくれた。特に芸術家を目指している児童が、その後の授業できちんと自分の考えを出していることが印象的だった。(6年生担任)」


コロナ禍でリモートワークが増えている昨今、世間的にはオンラインでの会議や対話が常態化しているが、学校にはその環境がまだ整備されていない。6年生のほとんどの子が初めての体験とのこと。リモートでの対話というシチュエーション自体も特別な意味を持った可能性はある。普段どのようなことに興味を持っていて、どのように制作をしているのか。同じテーマの作品を何年もかけて作っていること、その為に様々な場所へ旅をして取材や記録をしていること。そうしたアーティストの活動を初めて知った子ども達の驚き は、授業が終わっても質問がとまらず、作品を見た感想や意見もたくさん飛び交かっていたことからも計り知れない。



学校の日常を「みる」


 6年生とのリモート授業を終え、首都圏を中心に新たな緊急事態宣言の発令と共に年が明けた。アーティストの滞在期間(小学校での活動期間)を年明けに持ち越した我々にとって、年度内の実施そのものが絶望的となった2月。最終的な決断として、次年度に活動を持ち越す決定をした。 しかしながら、これまでに積み上げてきた関わりの上で何かできることはないだろうか、模索は続いていた。そんな中、下道氏から、リモートで授業を見学できないかという提案がなされた。学校の日常を知りたい、普段の子ども達がどのような活動をしているのか見てみたいという。こうして学校に相談した結果、今年度最後の取り組みとして6年生、4年生の授業にお邪魔し、リモートでの授業見学が実現する。

見学の方法は、6年生の授業同様に、パソコンを教室に持ち 込み、自前のWi-Fiで画面越しに見学するというもの。特に会話するわけでも、質問するわけでもなく、純粋に、「みる」だけの見学である。にもかかわらず、子ども達や先生方の様子は普段とは少し違ったという。

【おとどけアート 札幌市立新川小学校 × 下道基行】活動を振り返って_a0062127_17055271.jpg


「積極的にコミュニケーションを図っていきたいと思っていたので、授業の見学はウェルカムだった。次年度はもっと多くの学年と関わってほしい!(6年生担任)」


「外部の見方が入ってくることで、予定調和にならない、想像のつかない新しい発見につながことを実感した。(6年生担任)」


見学に伺った先生方からのリアクションは、それまでの活動の成果もあってか一様にポジティブなものであった。学校の内側の世界と外側の世界の境界線を横断するアーティス トの存在がもたらす影響について、それぞれにポジティブな発見があったのかもしれない。


「コロナ禍でできないことがたくさんあったが、身近にいない存在、教職員では呼ぶことができない存在との一生に一度の出会いだと実感した。ゴールが見えているものと違う考え方、やりながら作り出していく方法論は、背景を知ることの大切さや直接関わることの重要性を感じさせられた。(教頭)」


「芸術に触れる機会が少ない、接点を持ちづらい芸術家という存在に対して、今回は『下道さんってどんな人だろう?』 『下道さんのアートって何だろう?』と、関わったそれぞれが考えていた。視覚的なことを重視する学校教育の現状において今回の取り組みは、難しい部分もあった。しかしながら、関わる入り口はそれぞれにあって、長いスパンのなかでどこからでも出入りができる取り組みは価値があると感じた。(校長)」

 こうした振り返りの中で、私たちにも発見があった。直接的な対話や交流が限りなく制限された今回の活動の中で も、まだ見ぬ(出会えぬ)存在に対して思いを馳せ、想像する時間が、関わる人たちの知的好奇心や創造力を大きく刺激する。そして、アーティストが、その場所、その時間に存在していることを意識するだけでも、日常の景色が変わっていく可能性があるということだ。このことは、奇しくもコロナ禍で試行錯誤した取り組みの中でこそ見出せた成果であった。さて、一方で下道氏が、画面越しに見た学校はどのようなものだったのだろうか。遠く離れた直島で、まだ見ぬ学校の日常を想像する時間が、次年度新川小学校で取り組むであろう活動にポジティブな影響をもたらすことを願っている。

コーディネーター 漆 崇博

参考:2020年度おとどけアート「札幌市立新川小学校 × 下道基行」



by sair_ais_programs | 2021-06-04 17:09 | おとどけ/新川小/下道基行 | Comments(0)
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小学校にアーティストが滞在し子ども達と交流する事業
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