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【おとどけアート 札幌市立西岡南小学校 × 小林大賀】活動を振り返って2/2

札幌市立西岡南小学校 × 小林大賀 西岡南小学校での活動を振り返って

 

 今回の活動では、まず初めの数日を使って、自己紹介も兼ねた過去作品の上映を行いました。新しい教材(全校生徒分のタブレット端末)の導入とその搬入などが重なって、通常のおとどけアートの活動場所である空き教室が見つからない状況でしたが、かわりに体育館のステージや体育館前の廊下を使わせてもらえることになり、ステージを使った上映にちょうど良い運びに。この上映会も、感染対策として中休み昼休みに学年ごとの入れ替え制で行ったため、まる1週間以上かかることになりました。そんなある日、上映会中に泣き出してしまった子がいました。自分としてはホラー作品というわけではなかったのですが、登場する骨に見立てた木の枝や人形に免疫のない子がいたらしく、保護者から学校に連絡が あり、「うちの子が夜眠れなくなってしまった」と訴えられたことなどを聞きました。撮影に使ったそれらオブジェも廊下に展示していましたが、場所を移したりなどの配慮が必要になりました。ちょうど活動の帰りに先輩の作家に会ったので、顛末を相談したところ「作品は多かれ少なかれ暴力性を持っているものだし、それがその度合いによって教育的効果があったりするわけだけど、泣いてる子の親からしたら「うちの子が誰かに殴られたみたいなんですけど、どうなってるんで すか」ということでしかないよな」といったコメントをもらい、自分としても一旦頭の整理がつきましたが、冬休みを挟んで活動の後半に何をしようか考える中で、この一件がひとつの鍵になりました。死や暴力、と言葉にしてしまうと大げさですが、制作においては何かしらのネガティブなものも(直接的ではないにせよ)孕んでいる必要があるということを改めて意識させられたし、そうである以上、これは起こるべくして起こった摩擦だと感じました。また、活動の前半にはビデオレターをいくつか制作し、給食時間に放送しました。これまでの旅や夢にまつわる個人的な不思議話などなど。学校において勉強する、学習するというのは有用であると一般化された既知のものを蓄えていくということ。それに対して未知のもの、自分でもよくわからないこと、生きていることの不思議へ通じるようなことを投げてみたかった。

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 活動の後半は「もう会えないのまつり」というまつりを企画し、それに向けたものになりました。「もう会えないひと」をイ メージしながら服を作ったり楽器を作ったり、誰もいない客席に向かってみんなで踊ったり。 ネガティブなものを創作に変換していくという過程を学校という場所でどうできるか、ということを模索してこのようなかたちになりましたが、やってみると「もう会えないひと」を思い浮かべるなんてどうでもよくて、ただ好きな服を作っておしゃれがしたい、という子もたくさんいて、逆に「ああ、まつりってそういうものだよな」と思わされることに。


 私の通った小学校には特別支援学級はありませんでしたが、西岡南小学校にはあり、後半はその「ひまわり学級」の隣 の教室が活動場所となりました。ひまわり学級の子に特に感じたのは「カタチにする力がとても強い」ということ。服を作 るにしても、さっきアイディアスケッチをしていたかと思ったら、もう「できました!」と服が完成していたり、カービィのようなキャラクターをフェルトで作り込んだり。服は作らなかったけど、紙で精巧なスーパーカーを作っている子なんかもいて、 驚かされます。それも、写真を見ながらではなく、一回見たら細かいところまで覚えてしまうと聞き、二度驚く。まつりの日に一番元気よく、教えてもいない振り付けを編み出して踊っていたのも彼らでした。

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 まつりを企画しながら、同時にカメラも回し、ドキュメント的な映像を最後に見てもらいました。編集でカットを眺めていて、音に合わせて拍子をとったりバンザイしている彼らの手のシルエットが印象的でした。なんというかそれは「何も持っていない手」で、とてもしなやかで、骨や関節なんてないみたいに見える。確かに関節に痛みなんか感じないだろうから、 そんなもの彼らには存在していないのかもしれない。「何かを持つこと」「持ち続けること」にエネルギーのほとんどを費やし、疲れていくことに、そのしなやかさを見せつけられているような気持ちになりました。


 1,2年生の子は、音楽をかけたらもうその瞬間に体が勝手にリズムに乗ってたりして、まるで風に揺れる草花のようで愛らしかった。6年生なんかになると「まわりからどう見られるかわからないから(つまり恥ずかしいから)踊るのは絶対無理」と言ったりする。俗に「しっかりしていく」という言い方もするだろうけど、このようにして人間が固まっていくのだな、という寂しさも無きにしもあらず。6歳から12歳までの子達を一度に眺めることで自意識の芽生える過程が見えるのは面白いものでした。

【おとどけアート 札幌市立西岡南小学校 × 小林大賀】活動を振り返って2/2_a0062127_16580504.jpg


 おとどけアートの活動では、常にコーディネーターの杉本くんがサポートをしてくれ、現場での調整役を担ってくれるので、こういうアイディアを試してみたい、となると、まずは彼に相談する。そこで「学校に聞いてみます」という次なる相談ステップが訪れる。つまり何をするにもたいがいは相談と許可が二重に必要ということで、当たり前は当たり前なのだけど、普段の制作は主に自宅で、「アタマに浮かんだものをどうやってかたちにするか」 と手元に集中している自分にとっては、これはなかなかもどかしいものでもありました。小学校は思い出の中では日常的な場所のように感じたりもしますが、それはある「施設」だったのであり、制度の中にいるのだ、管理の場なのだ、ということを34歳の転校生は強く感じました。同時に、保護されるということと管理されるということの切っても切れない関係などなど考えていると、宮崎駿監督のインタビューでのこんなやりとりが思い出されました。「どうして作品中の主人公たちは親のない子ばかりなんですか?」「だって、親がいたら冒険できないじゃない!」


西岡南小学校は校区で言えば私の母校の隣にあたり、自宅からの道すがらに、かつては実家で今は建てかわった誰かの家が見えたりもする、目に入る風景から自然と自分の子供時代が再生されていくような地理的条件にありました。 様々な記憶の中でも特に、私が小学校に入学するとき父親が「大賀、学校というのは、行きたくなかったら行かなくてもいいところなんだぞ」と突然に真面目な顔で言ったこと。これに関しては、やはり今回いろいろ考えさせられました。まるで何十年も埋まっていた地雷のような言葉で、「教育の権利と義務」や、制度の中の人間、あるいは集団(社会)と個ということに関して、議題が次々と湧いてきました。今、その言葉の真意を確かめる手段が無いこともあり、漠然と、これからも付き合い続けることであると感じています。今回の活動はそんなトリガーのようなものでもありました。

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 今日の先生方の忙しさは噂に違わぬもののようでした。実際、活動を通じて、担任をもつ先生がたと話をする機会をほとんど持てなかった。自分が子供時代に大人を見ていた目線はおぼろげですが、しかしどう考えてもこんなに汲々とはしていなかったと思われたし、教頭先生と現場のあれこれといった話題に触れても、この余裕の無さに話が行き着くことが多かった。そして話している側から全校生徒分のタブレット端末600台が運び込まれ、空き教室を埋めていく。その様は、 ひとつの象徴のように感じられました。「学校の余白」がおとどけアートという事業のひとつのテーマですが、学校は社会の原点、縮図でもあるわけで、自分がこの埋められていく余白、遊びのなさへのワクチン、つまりウィルスであれたかどうか、あれるかどうか、という問いは当分の間(ひょっとすると死ぬまで)続きそうに思います。


 今回、3週間を超える長期間の活動をさせてもらい、最後までサポートしてくれたコーディネーター、スタッフの方々、協力していただいた先生方、そして活動に取り組み盛り上げてくれた子たちに感謝いたします。



小林 大賀 / Taiga kobayashi (作家)

1986年生まれ。札幌在住。札幌市立高等専門学校インダストリアルデザイン学科卒業。2008年、卒業制作の舞台「聖ペテロ神輿さまご奉納のための祭典」を皮切りに、札幌と東京で数々のグループ/ソロでのパフォーマン スを展開する。2012年にはBADO!の奨学金を得てアメリカ、スペインを旅しながらグラフィック作品の制作も行う。2009年に個展(札幌、レトロスペース坂)、2014年の親子展「Mi Familia」(札幌、OYOYO)など展示のほか、近年は「風の回廊」(オーストリア Film of Nations公式出品)、「骨」(中原中也生誕祭)、「yukue」「今日の天使」「雷鳴」ほか(EU Japan Fest 配信プログラム Keep Going TOGETHER)など、数多くの映像作品を発表している。

https://www.taigakobayashi.com/



by sair_ais_programs | 2021-06-04 17:01 | おとどけ/西岡南/小林大賀 | Comments(0)
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