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【おとどけアート 札幌市立新琴似北小学校 × 風間天心】活動を振り返って2/2

こころの「衛生」と「免疫」


コロナ禍のリモート交流


 僕がアーティストと僧侶の両方を隔てなく続ける理由は、そのいずれの分野も「人間」と、その「こころ」の奥深くに切り込む姿勢を持ちうるからである。人間という未だ不可解なものに向き合うためには、より多角的な視点が必要なことは疑う余地がない。

 「おとどけアート」の活動は2016年に別の小学校で実施しており、今回は2回目の活動になる。前回は、子どもたちが楽しく給食を食べる場で、僧侶が修行中に行う厳粛な食事作法を行った。教育現場でタブー視されている「宗教」を持ち込みたい意思のもと行った活動だが、「多くの人に囲まれているにも関わらず強い孤独を感じること」を実感できた一方、その方法と意義について課題が残った。

 2020年度に取り組むことになった「おとどけアート」は、コロナの真只中で実施することになった。社会全体が「新しい生活様式」を掲げる中、小学校での活動もまた、これまでのような親密な触れ合いをすることはできない。一方、僕自身には、コロナの状況を受けて既に始めていたプロジェクトがあった。コロナ禍、そしてその災禍が収束したのちにも影響する一番深刻な問題、「心の衛生管理」をテーマに掲げた「大仏造立プロジェクト」である。疫病蔓延のもとで造立された「奈良の大仏」の歴史を背景に、「大仏」という一つのシンボルを一緒に作りあげることで人々の想いを前向きにさせることを目的にしている。

【おとどけアート 札幌市立新琴似北小学校 × 風間天心】活動を振り返って2/2_a0062127_16402945.jpg

 この「大仏造立プロジェクト」では、全国各地の想いや願い、祈りを集めるため、日本中をまわる「勧進キャラバン」を行うことにした。車に仏像をのせてまわり、それぞれがコロナ禍で感じている不安や希望を「紙」に書いて、それを仏像に貼り付けてもらう。北海道をまわる道中で新琴似北小学校にも訪問し、子どもたちにも同じように祈りを託してもらった。車両自体にも、たくさんの想いを描いてもらい、それらと共に、今も日本中をまわっている。

 「勧進キャラバン」でしばらく全国をまわることが決まっていたため、小学校の子どもたちとは「リモート」での交流から始めることにした。コロナを機に急速に進む 「リモート時代」を背景にした今回の活動に、その時代性を反映させながら、子どもたちにもその状況を体感してもらいたいという狙いもあった。隣の市町村へも行けな い状況の中、定期的に全国の風景が届けられる配信を、 子どもたちは楽しみに待ってくれていたようだ。



「宗教」という社会性


 2020年度の活動の区切りとして、子どもたちに「一つの体験」をしてもらうことにした。体育館に大きな「人型」 を展示し、そこにはプロジェクターから投射された「大仏の画像」が重ねられている。プロジェクターと人型の間 には大きな透明の風船が置かれ、プロジェクターから発せられた光は一度、その風船を透過したのちに人型に投影される。

 この「大きな人型」には、前日に子どもたちに切り取ってもらった「小さな人型」がたくさん貼られており、それぞれに子どもたちの今の「想い」や「願い」が書かれている。これは、「勧進キャラバン」で行ってきた「仏像に想いや願いを貼る」ことの延長である。子どもから出た感想の一つに、「願いごとを考えたら前向きな気持ちになれました。」とあったように、まさに「気持ちを未来へ向かせるためのアクション」として行ってもらった。「大仏造立プロジェクト」で掲げている「精神衛生を保つ」ための行為をこの活動にも含ませた。

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 コロナ以降、学校の行事は軒並み中止となり、給食中ですらも友達と話すことが許されない。何よりも四六時中、マスクの着用を義務付けられていて、子どもたちの中に無意識にストレスが蓄積しているのは容易に想像できた。大人は自分の都合で適宜マスクを外したりするが、素直にルールを守る子どもたちは絶対にマスクを外さない。つまり、子どもたち自身の意思では、ストレスを解消できないのだ。精神的なストレスは大人だって無自覚に抱え込んでしまう。一寸先も見えないコロナ渦では、積極的にメンタルケアを推進する必要がある。


 もう一つ、僕自身が見据えていたのは前回の活動からつながるテーマ、「宗教という社会性」を学校に持ち込むことだった。まず、子どもたちに「小さな人型」を切ってもらう際には、「仏像の形を切り抜こう」とは指示をせず、「友達の座っている姿を切り抜こう」と指示をした。結果的には仏像のようなシルエットになるのだが、切り抜いている当人にとっては人間のシルエットである。仏像をはじめとした宗教における偶像は、結局「人間の形」をしている。宗教性を排除した公共彫刻だって、その多くが 「人間の形」をしている。つまり宗教もアートも、人間賛歌なのである。人類の歴史=宗教の歴史でもあり、多くの問題も孕んできた。その在り方を見つめ直すためにも、 まずそこに触れることから始めなくてはいけない。

 そして、この体験を行う日は【12月24日】とした。そのため、大きな人型をみた子どもの中には、それを「クリスマスツリー」と称する子もいたし、もちろん「大仏」と称する子もいた。どちらに喩えたって良いのだが、大切なのは、そのいずれの背景にも歴とした「宗教」が存在していることにある。昨今、取り上げられるLGBTも然り、実社会にはそれらの概念が確実に存在している。子どもたちの中には、その概念によって起こる差別の当事者も存在しているのが事実だ。それにも関わらず、子どもからその 存在を意図的に遠ざける理由はどこにあるのだろうか。 少なくとも僕自身は大学を出るまで、あらゆる差別の根元は「知識と経験の無さ」が原因であることに気づけず、 無意識に差別的な発言をしてしまっていた。

【おとどけアート 札幌市立新琴似北小学校 × 風間天心】活動を振り返って2/2_a0062127_16420298.jpg

 また、ここで用いられている風船は、光(この場合は大仏という情報)を通過させながらも、その中に入ることはできない。つまり、同じ社会に存在し、同じ情報に晒されながらも、外部からは触れることができないビニールハ ウスの内部のような「閉鎖された学校」の隠喩である。ビニールハウスの中にある野菜たちはすくすくと育つが、 その空間は温度管理され風雨の影響も受けない。培養された野菜たちはハウスを出たあとの食卓がゴールとなるが、子どもたちは、そうはいかない。むしろハウスを出た後に多様な人生が待っている。突然、温度変化が激しく、多くの害虫や細菌に晒された野菜は、その環境下で「生きる力」を持ち得ているだろうか。 この風船を登場させた理由は、今後の活動へ向けた導 線としても機能している。



閉鎖性を強めてきた「学校」と「お寺」


 これまでの流れを踏まえた上で、今後も引き続き小学校との関係性を続けることにしている。次に掲げるテー マは、「免疫」。この「免疫」という言葉もまた感染症と切り離せないものだが、僕が注目するのは、やはり「心の免疫力」である。

 札幌で最初に非常事態宣言が出た2020年2月、息子と一緒に公園へ遊びにいく機会が急に増えた。みんな行楽地には出かけられないため、公園はいつも以上に多くの親子連れで賑わっている。屋外ではあるけれど、 なかなかの人口密度だ。一方、帰り道に覗いた小学校の校庭には誰ひとり遊んでいない。学校の入り口にはカラーコーンが置かれ、「関係者以外立入禁止」の張り紙が貼ってある。「こんなにも広大な子ども向けの敷地があるのに、こんな時に開放できないのはなぜだろう?」 という疑問が生まれた。

 近年に起こった様々な事件によって、学校はどんどん閉鎖性を強めてきた。一方、いまの教育現場で求められているのは「地域社会との連携」であり、学校を囲むコミュニティ全体で子どもたちを見守る必要性が高まっている。しかし、実際に学校内部へのパスポートを持ってい るのは、教員、用務員、給食業者、そして保護者のみであ る。この無菌空間で育った子どもは、本当に社会に適応できるだろうか。もっと実社会に対しての「免疫力」を高める場にならなくてはいけない。もちろん、そこには多くのリスクが伴うが、その「リスクに適応すること」こそが、 まさに「免疫力」である。

 実はお寺が抱える問題もまた、その「閉鎖性」にある。 近代以前の日本では、お寺や神社は地域コミュニティのハブ機能を担っていた。そのある種の公共空間が、いつの間にか所有物に変化していったのだ。「勧進キャラバ ン」で日本各地のお寺をまわる中、この閉鎖性がコロナ禍で極限に達していることを目の当たりにした。

 今後も学校とお寺を行き来しながら、その二つがどのようにして「こころの『衛生』と『免疫』」に対して取り組むべきかを問うていきたい。


風間 天心/Tengshing Kazama

(美術家、僧侶)

美術家、僧侶。1979年、北海道東川町生まれ。2008年、 武蔵野美術大学油絵コース大学院を修了。2010年、大本山永平寺での修行を終え、武蔵野美術大学パリ賞によりパリ市「Cité Internationale des Arts」に滞在。宗教と芸術の相互作用を求め、国内外で多様な活動を続 けている。主な受賞歴として、「第5回 札幌500m美術館賞」グランプリ。「Tokyo Midtown Award 2015」優秀賞。2006年、第22回岡本太郎現代芸術賞」岡本敏子賞。 http://www.tengshing-k.com【大仏造立プロジェクト】 https://bigbuddha.jp/



by sair_ais_programs | 2021-06-04 16:44 | おとどけ/新琴似北/風間天心 | Comments(0)
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小学校にアーティストが滞在し子ども達と交流する事業
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