8歳の小人の書いた習字をお手本に、練習する36歳の大人がいます。 この大人は小人に向かって成長をしていると言えるのか? もみじの丘小学校に3週間(計14日)通いました。コーディネーターの漆さんと花田さんとともに。 まず初めに、小学校というのは「小さい学校」なのか、「小さい人が通う学校」なのか。とにかく「小学校」に対して私は大きくなりすぎていました。私が小学校に通うことは小さくなることを学ぶことでした。 「大きくなったら何になりたい?」 これは大人から子どもにされる質問です。あたかも子どもが、大きくなる手前の準備期間のように捉えた質問です。子ども達の側で過ごしていると、人は子どもの時間を過ごすために生まれてきたのだな、ということを改めて考えます。大人になる手前が子どもなのではなく、子どもとして過ごした時間の余波として、大人として過ごす時間があるのだということ。子どもの時間を大人になる為の準備期間として使ってしまっては本当に勿体無い。そして大人になった私が小学校に通うなら、子ども達が大人になる為に学ぶ授業ではなく、子どもであることを習いたい。授業をサボる子や間違った答えを言わないように先生の顔色を伺う子の緊張感から学びたいと思いました。怒られたくない。褒められたい。私をみて、私をみて、と一生懸命大人の真似をする子ども達の素直な心を習いたい、と。虫眼鏡のように拡大された世界を見ている子ども達。色々なものが大きく見えるから、大きな大人を怖がったり、小さな虫に気を取られたりしていました。数分に一度甲高い声で叫ばないといけないほどエネルギーを持て余していて、用もないのに走り回って、ドキドキドキドキ、目の前のことに心を動かされるがまま。私は子どもになりたくて、子どものように振る舞えるようになりたくて小学校に通いました。子ども達は、教養を身につけるために小学校へ通います。私はこれまでの人生で習得した教養を払い落としながら、子どもから学びたいと思いました。そして、この学びの場で小さい人は大きく、大きい人は小さくなれないものかと考えたのです。 図1をご覧ください。数直線上に8歳と36歳を置きます。0歳から成長して数直線の数が大きい方へ進めば歳をとっていくという図です。これは私たちが日頃体感している時間の流れです。今日の次に明日があり、昨日に戻ることはできません。いくら、数直線の時間軸に左向きの矢印を描いたところで時間が逆に流れることはないでしょう。 図2は方向性を表す矢印がありません。8と36の差が28であることを表しています。8歳がいずれ36歳に到達する。36歳は8歳を過去に通過した。こういうことを考えずに図2を見ると、8歳と36歳はお互いに28歳離れているとシンプルに言えます。ここで問題です。 8歳の小人の書いた習字をお手本に、練習する36歳の大人がいます。この大人は小人に向かって成長をしていると言えるのか? 先生の書いた習字の文字を真似することは子どもにとって、とても難しいことです。そのことを理解する為に、私は小学3年生(8歳)の書いた習字を真似しました。子どもの、筆圧が強くてコントロールが効かない手先を真似するのは本当に難しいことです。子どもの息遣い、走り回りたい衝動を抑えて椅子にじっと座ることに耐えながら小刻みに震えるエネルギーが、線の中に見えてきます。ハラハラドキドキするような線を引くことを、真似することで学ぼうとしました。無意識のうちに、スッと一本つまらない線を引いてしまわないように気をつけなければなりませんでした。 もう一度、図2を見てください。この二つは28年離れています。私も子どもも、お手本とする文字から同等の距離が開いているのです。私が子どもの書いた文字を真似することに費やした苦労と、同等の苦労を子ども達は費やしたのではないでしょうか。その点において私と小学3年生は同等。子どもに向かって成長した、とは言えませんが、成長という尺度を外した場合、8歳と36歳はこの習字というタスクに対して同等の努力を要する=8歳と36歳は同等である。8歳は子どもである。 8歳は子どもである 8歳と36歳は習字というタスクに対して同等の努力を要する=8歳と36歳は同等である 8歳=36歳 36歳は子どもである こうして、36歳の私は子どもである、ということが成立しました。 その後、「うちゅう人の前ならえ」というタイトルで、「子どもの目線に合わせる」ということを実際にやってみるとどうなるか試してみました。重力の制約を外し、地面からの測定方法ではなく目線を揃えてみた(図3)。 最後に。「おとどけアート」の3週間には感動的な出会いがあり、感傷的な最終日のお別れがありました。子どもたちを取り巻く環境、すなわち私たち大人が作っている社会が、子どもをどのように位置付けて考えているかが見えました。子どもたちがアートを学べる社会であって欲しいと願います。そして、アーティストにアートを教えるチャンスを作ってくれた、「おとどけアート」に感謝しています。 このプロジェクトのロジックがあまりにも唐突だったという方の為に、参考文献を二つ記載しておきます。 レイモンド・M・スマリヤン(1978)『この本の名は?:嘘つきと正直者をめぐる不思議な論理パズル』日本評論社 宗宮喜代子(2001)『ルイス・キャロルの意味論』大修館書店 松田朕佳 / Chika Matsuda (アーティスト) 1983年生まれ。長野県信濃町在住。高校卒業後、ニュージーランドに渡りNelson Marlborough Institute of Technology 語学コースを専攻。2年目からヴィジュアルアートコースに転専攻しコンテンポラリー・アートに出会う。2006年にBachelor of Artを取得後、担当教員の卒業校であるアリゾナ大学大学院に推薦を受け渡米。彫刻科に在籍し2010年にMaster of Fine Artsを修了し日本に一度帰国するが、その後もアメリカ、ヨーロッパのアーティスト・イン・レジデンスで制作、発表を続ける。2015年、エンジニアを含む異業種からなるユニット「耳のないマウス」を結成し、2017年にはユニットとしての作品で「清流の国ぎふ芸術祭Art Award IN THE CUBE」にて審査員賞を受賞。個人では、2018年4月にトーキョーアーツアンドスペース二国間交流事業プログラムでカナダ・モントリオールにあるアートセンターCentre CLARKに3ヶ月間招聘される。 「彫刻とは空間(物理的、意識的な)への働きかけである」を念頭に置き、主に立体作品を制作。作品を介して世界に普段とは異なる解釈を与え、日常を問い直す作業をしている。 https://www.chikamatsuda.com
by sair_ais_programs
| 2020-06-06 20:22
| おとどけ/もみじの丘小/松田朕佳
|
Comments(0)
|
ブログジャンル
記事ランキング
最新の記事
カテゴリ
全体 事業概要 2022年度AIS おとどけ/新川小/小助川裕康 おとどけ/発寒東/久野志乃 おとどけ/手稲西/千葉麻十佳 おとどけ/北都/フジ森 2021年度AIS おとどけ/新川小/下道基行 おとどけ/西岡南/小林大賀 おとどけ/新琴似北/風間天心 2020年度AIS おとどけ/もみじの丘小/松田朕佳 ウイマム/白老小/加賀城匡貴 おとどけ/手稲北小/斉藤幹男 おとどけ/美しが丘緑/森迫暁夫 2019年度AIS おとどけ/西園小/永田壮一郎 おとどけ/本町小/中島佑太 おとどけ/ひばりが丘小/上ノ大作 2018年度AIS 天神山AS/澄川南小/ミカ おとどけ/山の手小/川上りえ おとどけ/拓北小/まるみデパート おとどけ/有明小/東海林靖志 2017年度AIS おとどけ/苗穂/進藤冬華 おとどけ/西岡/深澤孝史 おとどけ/月寒東/長谷川仁 おとどけ/鴻城/山崎阿弥 2016年度AIS おとどけ/平岸高台/黒田大祐 おとどけ/栄東小/小町谷圭 おとどけ/星置東/永田壮一郎 2015年度AIS おとどけ/山鼻/持田敦子 トヨタ/苫小牧/藤沢レオ おとどけ/藻岩/藤木正則 おとどけ/元町/ダムダン・ライ おとどけ/北陽・白楊/加賀城匡貴 2014年度AIS おとどけ/北陽/風間天心 おとどけ/三里塚/加賀城匡貴 おとどけ/北陽/佐藤隆之 おとどけ/資生館/アサダワタル 2013年AIS おとどけ/もみじの森小/小川智彦 おとどけ/富丘小/本田蒼風 おとどけ/石山東/トムスマ 2012年AIS AIS/茨城・守谷/磯崎道佳 おとどけ/みどり小/山本耕一郎 おとどけ/あいの里西/冨田哲司 十勝/中札内/遠藤一郎 おとどけ/稲積/小助川裕康 2011年AIS おとどけ/旭小/片岡翔 おとどけ/常盤小/富士翔太朗 2010年度AIS冬期 おとどけ/福住小/斉藤幹男 十勝/大樹小/荒川寿彦 おとどけ/清田小/長谷川仁 2010年AIS秋期 おとどけ/北小/東方悠平 おとどけ/屯田南小/今村育子 文化/厚内小/開発好明 十勝/北中小/タノタイガ 2009年度AIS 十勝/シンポジウム おとどけ/幌西小/ルカローマ おとどけ/太平小/高橋喜代史 十勝/北中小/平原慎太郎 十勝/東士狩小/wah 2008年度AIS トヨタ/新光小/河田雅文 トヨタ/新陵東小/宝音&図布 札幌/シンポジウム 十勝/北中小/荒川寿彦 十勝/広陽小/anti-cool 十勝/佐倉小/ルカローマ 2007年AIS 十勝/岩井WS 十勝/途別小/祭太郎 トヨタ/有明小/石川直樹 トヨタ/山の手南小/野上裕之 十勝/北中音更小/ルカローマ 十勝/大正小/クニ&美佳 文化/大岸小/磯崎道佳 トヨタ/清田小/加賀城匡貴 2006年度AIS 十勝/花園小/杉浦圭太 文化/ニセコ小 /磯崎道佳 2005年AIS お知らせ 未分類 検索
タグ
おとどけアート(488)
アーティスト・イン・スクール(191) 2013(109) AIS(96) 2020(87) 2007(74) 2008(64) 風間天心(62) TOYOTA(46) 上ノ大作(43) 2009(43) 2010(37) 2014(36) 山崎阿弥(33) 2019(32) 小林大賀(26) 加賀城匡貴(25) 2012(24) 森迫暁夫(24) 2011(23) 以前の記事
2022年 11月 2022年 01月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 06月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 08月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 07月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 05月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 06月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 03月 2006年 02月 2005年 11月 2005年 10月 最新のトラックバック
ファン
|






