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【おとどけアート 斉藤幹男×手稲北小学校】活動を振り返って<アーティスト編2>
 
 自分にとって、9年ぶり2回目の「おとどけアート」となった今回の活動は、
登校初日まで不安な気持ちでいっぱいでした。
 というのは、事前に活動プランを用意してそれをスタッフや学校側と共有し、最終的な作品の完成そして発表を目指すという、9年前の「おとどけアート」では当然だった、企画ありきで進めるという形ではなく、まずは登校して校内にいる時間の中で何を活動の軸にするかを見つけるという、前回の活動とは全く別の形のスタートだったからです。
 
 それに加えて、自分を知ってもらうには、初日に自己紹介として子ども達や先生に今まで制作してきた作品を映像で見せるのが最も手っ取り早い方法なのですが、今回はそれもせず、どんな活動をするのか、その可能性をなるべく狭めずにやってみようというチャレンジがありました。

【おとどけアート 斉藤幹男×手稲北小学校】活動を振り返って<アーティスト編2>_a0062127_16263496.jpg

 このように、初めての環境の中に入ってからプランを生み出すというやり方は、普段自分が住む土地を離れて数週間から数ヶ月滞在制作をする、”アーティスト・イン・レジデンス”という活動ではよくあることで、滞在を始めて数日間のうちに、作品の題材になりそうな、その土地で初めて出会ってひっかかりを感じたものを元に作品を作るという行為と、同じ未知数の魅力を持っています。
 
 ただその一方で、小学校という通常はアート作品を制作、発表する場所ではないところに、何のプランも提示せず、自分のバックグラウンドや作品をほとんど知られていない状態で飛び込んでいくというのは、不安以外の何物でもありませんでした。実際に、普段制作には欠かせないノートパソコンやカメラを持参せず、ほぼ手ぶらの状態で校内に入った自分の心持ちは、アーティストというよりももっと真っ白な「?(はてな」な存在。自分自身でも校内にいる自分に違和感を感じるほどでした。
 けれども、その心もとない状態がプラスに転じたのか、何も持たない自分を何とかしたいと切実に思い、まずは子ども達に上靴を作ってほしい(当初は来校者用のスリッパを履いていたため)、そして活動場所となっている名前のない空き教室に、名前代わりの「アイコン」を作ってほしい、また、がらんとした空き教室に魅力を増やすために、理科準備室に眠っていた興味深い備品や先生自作のポスターなどを借りて展示したりと、今までのアーティスト活動ではしてこなかったアイデアが次から次へと浮かんできました。

【おとどけアート 斉藤幹男×手稲北小学校】活動を振り返って<アーティスト編2>_a0062127_23100752.jpg

 今振り返ると、自分の経験則でできる映像やアニメーションの制作といった、いわば得意技を封じたことから、切羽詰まったが故に浮かんだ選択肢だったのかと思います。

 また、見知らぬ大人のいる空き教室に子ども達(そして先生方も)が何度も来てくれるのは一体なぜなんだろうと。特に理由があるわけではなく、ただ何となくなのかもしれないけれど、その不思議さを抱えながら子ども達一人一人と接することはものすごく考えさせられるものがあって、たった2週間だけとはいえ、自分がこの教室にいることは子ども達にとってどんな効果があるのだろう?ここで過ごす子ども達はどんな活動をしてほしいのだろう?と頭の中でずっと考えていました。

【おとどけアート 斉藤幹男×手稲北小学校】活動を振り返って<アーティスト編2>_a0062127_15502011.jpg
 最終的な成果として、何かを作るということをせずに、教室に来る子ども達それぞれが好きなことをする場所を作る、という方向性を定めてからは、完成を目指す時間的なプレッシャーがなくなったぶん一人一人の話をじっくり聞くことができました。
 絵を描くことが好きな子もいれば、時間をたっぷりかけて上靴を作る子、怖い話をするのが好きな子、漫才や踊りを披露してくれる子など、教室の中で自由な振る舞いがあちこちで起こっている状況を、余裕を持って楽しむことができました。子ども達は僕に対して(この人は何しにきたんだろう?)、僕は子供たちに対して(みんな何を求めて来てるんだろう?)と、互いに謎に思い合うことで対等な関係を築いていたのかもしれません。


【おとどけアート 斉藤幹男×手稲北小学校】活動を振り返って<アーティスト編2>_a0062127_19380669.jpg

 そして、4年生の授業時間を頂いて行った、赤と緑の風船を大量に膨らませて教室をいっぱいにするという作業も、風船を膨らませるという単純作業に大人も子どもも上手い下手の差がないことが(教える)(教えられる)の立場のない対等な状況を作りました。またみんながそれぞれ好きな数だけ膨らませても良いとすること、自由で能動性のある時間を過ごせたらという狙いがありました。結果、数百個の風船で埋まった教室を見て、4年生みんなで過ごした時間がそのまま結晶化したような不思議な感慨が湧きました。

【おとどけアート 斉藤幹男×手稲北小学校】活動を振り返って<アーティスト編2>_a0062127_21143594.jpg
 今回の「おとどけアート」にはもともと企画書もあり、思えばそれもずいぶん悩みながら書いたものでした。子ども達が興味を持って関わってくれるような、わかりやすい面白さがあるものを作りたい、だけどそれは僕が先頭に立って指導しながら作るのではなくて、子ども達が進んでアイデアを出して大人たちを引っ張っていってくれるようなものにしたい。とても矛盾していて難しい望みでした。
 結局、企画書はなしになり、登校してからのぶっつけ本番となりましたが、何も用意していなかった教室が初日から子ども達でいっぱいになり、最終日まで途絶えることなく遊びに来てくれたことは、初登校前の不安な気持ちや悩みを一気に吹き飛ばしてくれました。そんな気さくな状況を日々作っている小学校の先生方、職員の皆様、保護者の方々にとても感謝しています。そして、ノープランのアーティストを学校側が信用して受け入れてくれる環境を作ってきたおとどけアート実行委員会に再度感謝をしています。

【おとどけアート 斉藤幹男×手稲北小学校】活動を振り返って<アーティスト編2>_a0062127_10503350.jpg
斉藤幹男/Mikio Saito
(アーティスト)
1978年札幌市生まれ。2000年、早稲田大学第二文学部表現芸術学科卒業。2002年、シュテーデル美術大学(フランクフルト、ドイツ)に進学、2007年卒業。マイスターシューレ(博士号)取得。 手描きの絵によるアニメーション、写真、CGなど様々な種類のイメージを組み合わせ、アナログ・デジタル双方の魅力を引き出す映像作品を主に制作し、国内外のギャラリーや美術館等で作品を発表している。2009年より札幌を拠点とし、市民参加型のワークショップ形式の作品制作や音楽家とのコラボレーション、映像以外の分野での発表も積極的に行っている。近年参加した主な展覧会に「Tooth Fairy Museum」(A4美術館、成都、中国、2019)、「札幌国際芸術祭2017」、「Keelung Ciao」(基隆、台湾、2017)、「パラピリオの森」(舞鶴、2016)など。

by sair_ais_programs | 2020-06-06 20:16 | おとどけ/手稲北小/斉藤幹男 | Comments(0)
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小学校にアーティストが滞在し子ども達と交流する事業
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