本町小学校でのおとどけアート六日目。
札幌市では初雪を観測し、子どもたちは朝から教室の窓の外に見えるぼたん雪に心を奪われた様子。11月の雪を楽しみにしていた中島さんも、井戸の部屋の窓から雪を観察します。
中休みは前日に引き続き、Nさんとそのお友だちが中島さんと一緒に絵を描こうと井戸の部屋を訪れました。中島さんが絵の描き方を“教える”ことはなく、あくまでも“一緒に描く”スタンス。声をかけたり子どもたちの絵にいたずら書きのようなドローイングを描き加えたりすることで、子どもたちが“それまで持っていなかった視点”に気づくきっかけづくりを試みます。

授業時間になるといつものように図書室へ出向き、次のお手紙を執筆したり本の続きを読んだりする中島さん。授業の合間の短い休み時間には、図書室の中島さんを訪問する子どもたちの姿がちらほら。
そして給食の時間は、二年生の教室にお邪魔しました。
さまざまな国と地域にルーツを持った子どもたちが通う本町小学校では、宗教上の理由でお弁当を持参する子どももいます。登校初日から彼らの食事に注目し、図書室の本などで事前にリサーチをしていた中島さん。給食をとりまく事情という一見些細なことから出発して、今まで詳しくはなかったイスラム教について学んだり、多様性について考える際に新たな視点を持ったりするようになったと言います。
近くの教室でお弁当を持ってきている子から話を聞いたりお弁当の写真を撮らせてもらったりと、この日の給食時間も調査にいそしんでいました。

昼休みには、連日井戸の部屋へ通うNさんから「なかじさんの作品はどこにあるの?見てみたい!」とリクエストが。中島さんは「僕の作品はここには持ってこれないけど、パソコンでは見れるよ」とラップトップを広げ、Nさんと一緒に、あるワークショップの記録写真を見ていきます。
中島さんはNさんに作品の自由な解釈を促し、「これなんだと思う?」と問いかけながら記録写真を見ていきます。ガイド役との対話の中で鑑賞者の自由な作品の見方を引出す対話型鑑賞のような手法で、“鉛筆や絵の具で描いた上手な絵”以外にもさまざまなアートの形があることを伝えようと試みたのでした。

Nさんは未知の表現との遭遇に戸惑ったような表情をみせつつ、中島さんと対話しながら、終始興味深そうに画面を見つめていました。
作品写真をひととおり見終えると、待ちきれなかった様子で「絵を描こう!」と提案するNさん。
「なかじさんが一人で描いた絵を見てみたい」と言うNさんに、中島さんは「僕は一人で何かやるのはあんまり好きじゃないんだけどね…」とことわりを入れつつ、昨日一人でグラデーションを描いた紙を持ってきます。「すごい!これは一本の鉛筆で描いたの?」と目を輝かせるNさん。

間もなくNさんのお友達も集まり、自然と円になって、お絵かきタイムがスタート。はじめは各々一人で描いているのですが、少し時間が経つと、友達の手元の紙にいたずらするようにドローイングを重ねていきます。中島さんが一人で描いたグラデーションの上にも、誰かがドローイングを重ねます。
ところで、井戸の部屋には登校初日から世界地図と北海道地図が置かれています。

この日は休み時間に子どもたちから「(中島さんが住んでいる)群馬県ってどこにあるの?」と尋ねられ、二つの地図には群馬県という文字が書かれていないことに気づいた中島さん。午後は群馬県の場所が一目で分かる日本地図と、小学校周辺の地域をより詳細に説明した札幌市の地図、そして制作年代の異なる二つの地球儀を新たに設置しました。

時を経て国名や国境が変わっても同じ人たちが住み続けていたり、一つの地域をたくさんの人が出入りしたり…国内外の規模で転入出する生徒が多数いる本町小学校の子どもたちにとって、井戸の部屋に増設された地図たち、そしてもうすぐ学校を去る“転校生”中島さんは、どんなふうに見えているのでしょうか。